相続法改正(平成30年)

権利の承継

(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

【第1項】
●「相続による権利の承継」には、遺贈を原因とするものは含まれない(その対抗要件具備は、177条・467条等による)。
●(法定)「相続分を超える部分」に関する規定(指定(●法定?)相続分は無関係)
●177条の特則(●確認:無権利者に対しても、なので?)
●「相続による権利の承継」の話なので、「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず」、被相続人から直接承継したしたことを宣言するのみ。
●相続放棄の遡及効が絶対的に生じる点については、変更するものではない。
●債権譲渡の場合、確定日付のある証書による通知を要する(899条の2第1項、467条2項)。

【第2項】
●原則:他の相続人は、対抗要件を具備させる義務を負わないので、その協力を期待することはできない。
●例外:そこで、債権については、単独での通知可能とした。また、不動産を相続した場合も同様(不動産登記法63条2項)。
●他方、動産を相続した場合には、遺言執行者がある場合(1014条2項)を除き、規定はなく、解釈に委ねられる。
●確定日付のある証書による通知を要する(899条の2第1項、467条2項)。

義務の承継

(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)
第九百二条の二 被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができるただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない

●共同相続人間では、相続債務は指定相続分に応じ承継される(明文なし。改正前のH.21.3.24最高裁判例の準則)。よって、指定相続分を超えて弁済した者は、他の相続人に対し求償可能。
●趣旨:「一人」(902条の2ただし書き):法律関係の複雑化防止
●「承認」(902条の2ただし書き)については、事案毎に、禁反言の法理(1条2項)が適用されうる。
●一旦法定相続分に応じた権利行使をした場合、「承認」の効力は遡及しない。

持戻し免除の推定

(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

●趣旨(1項):遺贈・贈与の趣旨を、特定の相続人の相続分の一部として財産を取得させること(中立的な遺贈・贈与)と理解し、それに沿った持戻しをする(原則)。
●趣旨(3項):被相続人の持戻し免除の意思を尊重し、特定の相続人に相続分に加えて財産を与える(先取的な遺贈・贈与)。意思表示は黙示でも良い。
●趣旨(4項):長期間貢献した配偶者の老後の生活保障を図る旨の被相続人の意思推定。
●補足:4項は改正により新設。当該推定は、配偶者の法定相続分の引上げの代替策として導入された。
●参照:1028条3項。1044条3項。

分割前の財産処分

(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
 前項の規定にかかわらず共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす

●趣旨:他の共同相続人の利益を害さない範囲内で、比較的小口の資金需要を満たす。
●参考:「法務省令で定める額」は150万円(●2021年4月24日現在)

【家事法】

(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)
第二百条 家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。次項及び第三項において同じ。)は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、遺産の分割の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することができる。
 家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。
 第百二十五条第一項から第六項までの規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第一項の財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。

●預貯金債権については、相続開始時に当然分割されない。しかし、遺産分割前に、相続人が単独で行使できる方法が設けられた。
・仮分割の仮処分(家事法 200条3項)
・預貯金債権の行使(仮払い)(民法909条の2)

●上記方法によらずに受領権限のない払戻しがあった場合、478条の要件充足が、ある場合には払い戻された預金債権も遺産に含まれるが、ない場合には含まれない。しかし、それでは、払戻しを受けた相続人とその他の相続人との間に不公平が生じる可能性がある。そこで、条文が置かれた。
・民法906条の2

●相続開始後、ある相続人による処分により遺産から逸出した財産については、原則として、遺産分割の対象とははらない。
しかし、例外として、相続人全員の同意があれば、遺産分割の対象とされる(906条の2第1項)。手続が長引くことなく、公平な遺産分割が可能なため。
もっとも、当該処分をした相続人の同意は不要(同条第2項)。旧法下においては、かかる相続人の同意も要することから一種の拒否権が付与されており、公平な陰惨分割が妨げられていたが。

●無断で払戻しを受けた者以外の相続人が同意しない場合、遺産分割の対象とはできない。そこで、不当利得・不法行為等の構成による。返還された後の分割方法について、追加的遺産分割による等の諸説あり。

●遺産分割の対象となる場合、例えば払い戻された預金を払戻しを受けた相続人が保管しているとみて、分割対象財産とする(特別受益とは見ない。計算結果が異なる。)。

一部分割

(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない
 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

●旧法下では、一部分割の必要性・許容性が必要とされていたが、新法においては、必要性は不要とされ、許容性のみ維持された(907条2項但書)。

●共同相続人による遺産の「一部」分割(すること)が許容される点(従前の通説・実務)が明文化された。しかし、一部の遺産分割を禁じる遺言があった場合の908条の解釈への影響はない。旧907条3項(実質改正なし)が家庭裁判所による一部分割禁止については明文で規定していることから、かかる遺言も可能と解されていた。

●改正の過程で、相続人間の実質的公平の確保の観点の他、公益的見地(例:分割されなかった建物が放置され荒廃する等の事態の防止)から一部分割を制限することも議論されたが、見送られた(907条2項)。理由:①任意性(907条1項)との整合性が問題、②共有の場合も同じなので。

●改正の趣旨に照らし、許容性については緩やかに解される、という考え方もある。

分割前の預貯金債権行使

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす

●趣旨:生活、相続債務弁済、葬式費用、納税等の資金需要への対応
●「法務省令で定める額」は、150万円
●各「預貯金債権」ごとなので、定期預金・普通預金等ごとに計算され、合計される。どの預貯金から限度額まで払い戻すかは、相続人・金融機関の協議。
●各「債務者」ごとなので、支店については併せて一金融機関として、複数金融機関であれば各々一債務者として、計算される。 どの預貯金から限度額まで払い戻すかは、相続人・金融機関の協議。
●平成28年決定により、金融機関は、本旨弁済・民法478条に依拠することが出来なくなった。加えての本条制定により、金融機関は本条に準拠した方法を奨めると思われる。
(が、いわゆる「便宜払い」は事実上ありえる。)

家事事件手続法の一部改正

(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)
第二百条 家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。次項及び第三項において同じ。)は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、遺産の分割の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することができる。
 家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない
 第百二十五条第一項から第六項までの規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第一項の財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。

●趣旨(家事法202条3項の追加):2項と比較し、①預貯金債権に限定しつつ、その取得について、②単に「必要があるとき」に認め、それを例外的に否定する場合のメルクマールとして、③他の共同相続人の相続分を害するか否かのみを採用した。この点が、事実認定上の最大のポイント。

自筆証書遺言の方式緩和

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

●2項が新設。趣旨:方式緩和。
●変更については、3項。財産目録の変更は自書でなくとも可。

遺贈の担保責任

(遺贈義務者の引渡義務)
第九百九十八条 遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

●趣旨:改正前(旧998条2項)は、不特定物については瑕疵担保責任について規定し、特定物については、551条(債権法改正前)を前提に、担保責任を負わないと解されていた。しかし、そのような特定物・不特定物の区別の合理性に疑問があること、及び551条1項(債権法改正後)も当該区別をしていないこと、並びに贈与も無償性に照らし、改正をした(本文)。但書は、遺言者の私的自治。
(なお、遺贈の目的たる物・権利が第三者の権利の目的であるときについて、遺贈義務者に対する消滅請求が規定されていた(旧1000条)が、998条に収斂されるものとして削除された。)

遺言執行者の権限(A)

(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

●趣旨(1007条2項(新設)):旧法では、相続人が遺言執行者の存在を知る術がなかったことから、その点を改めた。

(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

●趣旨(1012条2項(新設)):遺贈の履行権限者は、遺言執行者である点、及びそれに限定される点を明確にした。

(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

●趣旨(1014条2項):特定財産承継遺言に係る対抗要件主義(動産・不動産共に。899条の2)を前提として、遺言執行者がそのために必要な行為が可能である旨を明確化(引渡しは対象外。動産・不動産共に、と解される。)。特定財産承継遺言は遺産分割の方法の指定(908条)の性質を有する(最判H.3.4.19)。
●趣旨(1014条3項):遺言者の合理的意思。なお、請求及び申入れ権限に留まり、強制的な権限ではない(具体的には、満期未到来の場合は金融機関は拒絶可)。預貯金債権以外の金融商品、貸金庫等については、規定なしゆえ、遺言の解釈問題。

(遺言執行者の行為の効果)
第千十五条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる

●趣旨(1015条(全面的変更))上述の通り、旧1015条の実質的な内容を、形式的にも明確にした。
●(相続人を本人とする)代理行為における顕名ではなく、遺言執行者であることを示す顕名で必要十分。
●遺言執行者が相続人に新たな不利益をもたらしうるもの(例:新たな売買契約により遺産に属する不動産を購入する等)は許されてないと解されるが、その他の自己契約・双方代理的契約は許されると解されている。類型的な利益相反の可能性から改正の議論はあったが、旧法下での実務でも普通のことであったこと、条文上・理論的に認めることは可能なこと等から。

(遺言執行者の復任権)
第千十六条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

●趣旨:1016条1項但書を除き、105条(法定代理人による復代理人の選任)と同じ。なお、2項に1項但書同様の規定はない(解釈論となる。)。

遺言執行と相続人の行為

(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

●●●

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

●遺言執行者がいない場合:
対抗要件主義(遺贈(177条)、特定財産承継遺言(法定相続分を超える部分)(899条の2))

●遺言執行者がいる場合:
原則:無効(1013条2項本文)
例外:善意の第三者保護(1013条2項但書)

●相続人の債権者(相続債権者を含む。)については、遺言執行者の存在を知っているか否かに関わらず、対抗要件主義を採用している(1013条3項)。
なお、(狭義の)相続人の債権者と相続債権者とは、(1)相続による法的地位の変動の有無、

(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条
 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

●●●

(遺言執行者の行為の効果)
第千十五条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

●●●

遺言の撤回

(撤回された遺言の効力)
第千二十五条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

●「錯誤」(1025条但書)を追加。実質改正なし。
●この改正は、錯誤(95条)の効果が(無効化から)取消へと変更されたことに伴うものであるようであり、詐欺・強迫以外に錯誤の場合も広く認めるべき、という従来からの問題意識に正面から答える趣旨での改正ではない模様。

配偶者居住権(A)

●意義
・高齢化の進展に配慮
・使用のみ認める(収益・処分権限なし。)
・「賃借権類似の法定債権」(賃貸借類似するという点については、「無償」(1028条1項)ではあるものの、他の遺産の取得分は減少する点に有償性が認められるため。)
・短期、の方は、使用貸借的。
・賃料支払義務なし(取得自体は無償ではない。遺産分割に際し対価を支払ったのと同様。)
・譲渡禁止(1032条2項)
・終身居住可能(1030条)
・第三者対抗可能(1031条)。ただし、対抗要件は登記のみ(占有は対抗要件ではない。借地借家法31条は適用されない。)。仮に占有が対抗要件となるとすると、ほぼ全ての事案において、対抗要件を備えることになる。そうなると、相続開始前に、被相続人の債権者による差押え等を誘発しかねず、かえって配偶者の居住権が保護されないおそれがある。
・権利者死亡により消滅(1036条、597条3項)
・賃借権よりは弱い権利であることから、どちらにするかは慎重に検討すべし。
・「建物」(1028条1項)に関する権利であることから、敷地については、別途利用権を設定しておく必要がある(敷地も併せて転売等された場合を想定。)。
・改正前同様、所有権者となった相続人と配偶者との間において、賃貸借契約を締結することは勿論ありえる。
・存続期間の更新(賃貸借の場合、604条2項)は認められていない。
・参考:建物を目的とする用益物権は存在しない。

第八章 配偶者の居住の権利
第一節 配偶者居住権

(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない
 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

・被相続人の弟に建物の所有権が、配偶者に配偶者居住権が、各々遺産分割(1028条1項1号)又は遺贈(同2号)されれば、配偶者死亡後にも所有権は配偶者の親族に移転しない。
・1028条1項ただし書きの趣旨:249条に基づく使用を妨げるため(共有者が同意していても適用される。なぜなら、配偶者居住権は、被相続人の権利の一部承継であり、存在しない権利については妥当しないから。)

(審判による配偶者居住権の取得)
第千二十九条 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。

・1029条2号の趣旨:通常、所有者は、配偶者に対する扶養義務(877条1項等)を負いうるので、当該必要性がある場合に受ける負担はやむを得ない、ということ。

(配偶者居住権の存続期間)
第千三十条 配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

(配偶者居住権の登記等)
第千三十一条 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
 第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

・引渡しは、対抗要件ではない(第三者保護のための公示の必要性が強いから。)。

(配偶者による使用及び収益)
第千三十二条 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
 配偶者居住権は、譲渡することができない
 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。

・善管注意義務(1032条1項)の趣旨は、(賃貸借・使用貸借とは異なり)法定債権であることから、義務違反につき、契約解釈・400条等から導き出せないため。
・配偶者居住権の趣旨に照らし、1032条1項ただし書きとは逆に、居住の用に供していた部分を(例えば商売等の)居住以外の用に供することは認められないと解される。
・譲渡禁止(1032条2項)は、466条1項本文の例外として、明文化された。転貸は可能(同3項)。●私見:「転貸」という表現には若干違和感あるも、通例に従い使用。
・建物の転貸を受けた第三者は、占有による対抗力(借地借家法31条)を備え得る。
・「第三者」(1032条3項)ではなく、所有者との関係で放棄し、その対価を得ることはできると解されている。
・配偶者短期居住権については、増改築は認められていない(1038条2項)。短期なので、想定されていない。

(居住建物の修繕等)
第千三十三条 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。
 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

・1033条1項は、配偶者に第一次的な修繕権を認めた点にある。
・賃貸借では、原則は賃貸人が修繕義務を負う(606条1項本文)ため、賃借人には権利はない(その例外として、607条の2第1号・2号●など?)。

(居住建物の費用の負担)
第千三十四条 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

・通常の、必要費は配偶者負担(1034条1項)。所有者の負担を考慮し、短期(使用貸借的)と同様とした。本来的には、賃貸借類似なので所有者(賃貸人同様)負担のはずだが。
・賃貸借では、必要費は賃貸人負担(608条1項)であるのに対し、使用貸借では「通常の」必要費は使用借人負担(595条1項)。
・前提知識:固定資産税は「通常の」必要費。

(居住建物の返還等)
第千三十五条 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

・1035条1項ただし書き適用の結果、通常の共有法理による。従って、特段の合意があった等の事情がない限り、当然には明渡請求できない(判例)。
・前提知識:使用貸借(599条3項)では経年劣化も含まれうる文言であるが、賃貸借(621条)では、明文で除外されている。●確認

(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)
第千三十六条 第五百九十七条第一項及び第三項第六百条第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する。

・参考:613条に関して、賃料は直接履行する必要がない(親亀が「無償」なので、という議論があるらしい。)。

配偶者短期居住権(A)

・配偶者居住権(関係者の意思表示に基づく)を取得しない場合の権利(1037条1項ただし書き)。(意思表示に基づかず)当然発生。
・使用のみであり、収益は認められない。
・遺産共有状態にないばあいでも(他の相続人のみが所有権を有する場合においても)、成立する。
・使用受忍義務にとどまる(1037条2項)。
・「第三項の申入れの日から六箇月を経過する日 」(1037条1項2号)とし、相続開始の時からとしなかったのは、相続開始後相当期間経過後に遺言書が発見された場合などを考慮。
・第三者には対抗できない。他の相続人に対する損害賠償請求の可能性があるのみ。
(例えば、相続開始後に設定された抵当権にも劣後する。賃貸借(395条1項)同様の猶予もない。)
・従前同様の使用をする利益を確保する趣旨。よって、相続開始時の使用していた部分に限られる。
・「遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日」(1037条1項1号)を経過した場合、配偶者の権利濫用(1条3項)が問題となり得る。
・「前号に掲げる場合以外の場合」「第一項第一号に掲げる場合を除くほか」(1037条3項)は、配偶者が遺産分割に参加しない場合(例:相続放棄)などを想定。
・配偶者以外の相続人に使用貸借を認めた判例は存在意義を失っていない。よって、配偶者短期居住権と両立する。

第二節 配偶者短期居住権

(配偶者短期居住権)
第千三十七条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日
 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から六箇月を経過する日
 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

(配偶者による使用)
第千三十八条 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
 配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる

・使用のみであり、収益は認められない。
・「ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。 」(1032条1項)同様の規定はなく、「従前の用法に従い」のみ(1038条1項)。
・「第三者」(1038条2項)には、占有補助者(従前からの)は含まれない。
・保護されない使用収益については、別途従前からの使用貸借契約があったかが問題となる(ただし、配偶者短期居住権が明文化されたことを踏まえ、成立・範囲について慎重に判断・事前確認。)。

(配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅)
第千三十九条 配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。

・1037条1項柱書ただし書きの場合と2つの場合がある。
・有償になる(が、強い権利になる。)。遺産分割の場合は自ら希望。遺贈・死因贈与による場合は持戻し免除(1028条3項・903条4項)が認められることが多い(例外は遺留分侵害額請求を受ける場合など限定的)。なのでOK。

(居住建物の返還等)
第千四十条 配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

・1040条1項ただし書きは、共有持分に基づく使用権の存在を考慮。その後は共有法理(252条等)の問題。配偶者の相続人との間についても同様と考えられる。

(使用貸借等の規定の準用)
第千四十一条 第五百九十七条第三項第六百条第六百十六条の二第千三十二条第二項第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。

・建物滅失の場合、例えば火災保険金請求権等の代償財産については、可分債権として遺産分割の対象とはならず、各々が法定相続分を取得(判例)。

遺留分制度(A)

第九章 遺留分

(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

●3項は、1項前段に対する例外であり、後段に対する例外ではない。
●「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」(特別受益(903条)にあたる)に限定した趣旨。
①生活費等との区別が困難。②時期により区別することによる紛争の複雑化回避。

第千四十五条 負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす

●「負担付贈与」(2項)とみなすのは、遺留分の減殺ではなく侵害額の請求権と改正されたこと(金銭債権化。1046条1項)、及び(物の所有権を移転させた上で差額等を償還させることによる)本来的行使価額を超えた権利行使及び償還に伴う法律関係の複雑化回避。

(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる
 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

●1項の請求権は、相続人の固有財産。
●遺留分侵害となる相続分指定も当然には無効とならない(旧1046条1項かっこ書きの削除)。
●共同相続人間での相続分の無償譲渡も「贈与」に該当する(最判H30.10.19)。
●遺留分の算定に関する2項2号は、具体的相続分説を採用した(v.s.法定相続分説。遺産分割が成立していない場合、法定相続分、された場合、実際に分割された額を基準。)。●検討

(受遺者又は受贈者の負担額)
第千四十七条 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
 第九百四条、第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。
 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。
 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

(遺留分の放棄)
第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

相続人以外の者の貢献(A)

第十章 特別の寄与

第千五十条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

●前提:相続人には寄与分(904条の2)がある。
●典型例:被相続人の配偶者(夫(息子)の父を介護した妻)
●(親族ではあるが)相続人ではないことから、旧法下では、相続人の寄与分に含める間接的な保護のみ。問題点:①息子が偶然父より先に死亡したら保護なし、②分け前は夫の胸三寸。
●「労務」は、療養看護・家事従事(金銭等支出・扶養・財産管理は含まれない。なお、それらについては、例えば扶養義務者等に対する財産権上の請求で足りる場合もある。)
●「特別の寄与」:後見の程度が一定程度を超えることを要するに留まる。cf.寄与分(904条の2)の特別の寄与は、通常期待される「通常の寄与」を超える高いレベル。
●「親族」に限定した趣旨:①身分関係ない者が加わることによる紛争の複雑化等、②近しいが故に有償で応じる困難があった者の保護、③扶養義務者(877条)とは異なることとし、請求権者=介護負担者とのイメージ払拭。
●内縁の配偶者は対象外。
●「遺贈」(4項)のみが考慮(債務は考慮されない)。事実上、3項の「一切の事情」(3項)として。

家事手続法の一部改正

第十八節の二 特別の寄与に関する審判事件
(管轄)
第二百十六条の二 特別の寄与に関する処分の審判事件は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

(給付命令)
第二百十六条の三 家庭裁判所は、特別の寄与に関する処分の審判において、当事者に対し、金銭の支払を命ずることができる。

(即時抗告)
第二百十六条の四 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。
 特別の寄与に関する処分の審判 申立人及び相手方
 特別の寄与に関する処分の申立てを却下する審判 申立人

(特別の寄与に関する審判事件を本案とする保全処分)
第二百十六条の五 家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所)は、特別の寄与に関する処分についての審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は申立人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者の申立てにより、特別の寄与に関する処分の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

●特別の寄与に関する処分の審判事件は、調停も可能(家事法244条、別表第2第15項)
●特別の寄与に関する処分(調停・審判事件)、及び遺産分割(調停・審判手続)の併合は裁判所の自由裁量(家事245条3項、192条)。

自筆証書遺言の保管制度(A)

(略)

●「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)(2020年7月10日施行)

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